#27 残留につき

昼飯のBLTサンドを食べながら見ていたタイムラインに中国新聞カープ番記者アカウントのツイートが流れてきた。
 
會澤翼カープ残留。
 
その数日前からやれ楽天だ巨人だと無責任に流れてくるリツイートを見て、いやもっと言えば「あの」FA以来、私は期待しないようにしていた。FAは選手の権利で、彼らは生きて働く場所を選ぶ自由がある。だから考えない。地元が関東だとか、配偶者も関東出身だとか、嶋が構想外になったとか、そういうことも含めて考えない。そうつとめていたのが緩んだ。生まれた感情は分類も難しく名前は当然つけられず、とりあえずshop.carp.co.jpにアクセスして、ユニフォームとTシャツを買った。これを来季も着られる。そう思って、ほっとした。
 
さかのぼって2012年、いや2011年? 当時あった「ザ・インタビューズ」という今でいう「質問箱(peing)」みたいなサービスにひとつの質問が来た。具体的な文面は覚えていないが、會澤翼に正捕手になってほしいですか?みたいな問いかけだったと思う。そこに私はこれもうろ覚えだが以下のように答えた。
 
今のカープには石原さんという絶対的な正捕手がいるのでなかなかスタメンをとるのは難しいと思う。ただチャンスがあれば試合に出て、いつか「FAしないでくださーい!」とファンに言われるような選手になってほしい。
 
「FAしないでくださーい!」は、これはもう通じないネットスラングだと思うので書いておくと、黒田博樹がFAせずにカープ残留を決めたときに「ヤングアニマル」に載った前後編の漫画のなかでファンの少年が黒田にかけた一言だ。
でも2012年とか2011年とかそのあたりに「會澤FA権取得」とかほざくのはファンとバカだけだった。シュルツが會澤のサインに7回首を振ったのは2009年7月のことだ。そのあと、やれ木村一喜二世だ、森伊蔵だとインターネットのわるい広島ファンに揶揄され、野球詳しいマンたちにインサイドワークが悪いと叩かれ、〇〇専用捕手にもなれず、という時期が続いた。私はヌルいファンをしながら、そして同期の前田健太が華々しく活躍するのを見ながら、あー、またスタメンをとれそうでとれない選手にハマったのか……と思っていた(余談だが前の推しは森笠繁だ)。
 
そもそも私が會澤翼を応援するようになったのは、マジでこれは本当なのだが、「二軍の初打席で頭部死球で退場になった」という話を聞いたのが原因だ。ヘエーと思って読み飛ばしていた広島アスリートのインタビューを読み、まだ無料で公開されていた中国新聞の指名直後会見の短ランボンタンエピソードを読んで、こいつマジか?と思って、それから気にかけるようになった。といっても関東在住の人間は二軍戦には縁がなく(当時マジで金がなくて遠征はできなかった)、実際にプレイを見るのはもう少し先のことになる。明白に覚えているのは2010年5月15日のvsダルビッシュ戦のスタメンや、京セラでスタルツと組んだ時に打った三塁打あたりだ。
 
まあそんなこんなで、2012年か2011年かに、私は「FAしないでくださーい」と言われる選手になったらいいなと、夢見る夢子ちゃん気分でインターネットに書き込んだ。「ザ・インタビューズ」はその後2015年に閉鎖したので、そのログはもう残っていない。今見たらWebArchiveにもなかった。
 
そのあと會澤はライトを守ったりファーストを守ったりしながら徐々に出場試合を増やしていった。そして今年5月、會澤はほんとうにFA権を獲得した。彼を取り巻く状況はがらりと変わっていて、平成の終わりをカープは三連覇で飾り、マツダスタジアムも神宮もハマスタもプラチナチケットになり、当の本人は押しも押されぬ、というのはファン目線だけど、正捕手と呼びなされるようになっていた。
18年オフに丸がFAで巨人に行った。丸と會澤というとそれこそ広島アスリート誌上で暴露された「俺、水短だから」発言なんかが思い起こされるのだが、二人はまあまあ似た環境にあった。ともに関東出身、配偶者も関東出身、脂ののったアラサーでのFA権獲得。
 
だからまあ、しかたないんだよ。そう思うようにしていた。だって、あのあいつが、FAするくらいだよ。関東の子がさあ、関東に戻りたいって言ったって、もっとお金をもらえる球団に行きたいって思ったってしかたないよ。そうだろ。
 
今、発表から6時間ほどがたって、複数年契約(3年6億)の報道、一問一答の全文掲載などがあり、私は會澤の100gあたりのお値段を算出(22万2222円)したりしながらこれを書いている。よかった、のか、わからない。もちろんうれしい。うれしいがそれはファンの感情で、正誤とは別である。もちろんそれはドラフトの成功/失敗のように時がたたないとわからないことで、来年のオフにやっぱFAしま~すと言われるようなことだってあるかもしれない。急に海外FAとか言い出すかもしれないし、人生なにがあるかわからない。
 
いやあでもやっぱりうれしいな。うれしい。どうもありがとう。来年もまた応援させてください。2019年10月10日18時38分、いちファンより。