高等学校卒業程度認定試験(高卒認定)について

高等学校卒業程度認定試験(以下高卒認定試験)について書きます。
 

高卒認定試験についてその1

普通に(って何?)生活している人は、もしかしたらあまり出会わない資格かもしれません。日本の中学校卒業者の高校進学率は98.8%(「学校基本調査」令和元年版速報値(リンク))、高校中退率は2.65%(2014年文科省「学生の中途退学や休学等の状況について(リンク)」調査での値)です。ざっくり95%くらいの人は高校に行って卒業しています。のこりの5%の高校を卒業しなかった/できなかった人たちのためにあるのが高卒認定試験です。
この試験に合格すると、国が「高校卒業程度と同等の学力があることを認定」してくれます。
世の中には思ったよりたくさんの「高卒資格」が必要だったり、有利になったりする学校、試験、就職活動などがあります。
たとえば保育士の資格を得るためには、高卒だと「児童福祉施設で2年以上かつ2880時間以上の実務経験」が必要ですが、中卒の場合は「児童福祉施設で5年以上かつ7200時間以上の実務経験」となります。
大学受験も、文部科学省は「大学の入学資格に関しては、高等学校を卒業していなくても、中等教育学校卒業者、特別支援学校の高等部修了者、高等専門学校の3年次修了者に認められます。」(リンク)といっていますが、たいていの大学では手ぶらの中卒(あるいはそれ未満の学歴)の人間には受験資格はありません。
就職においてもたとえば「国家公務員採用一般職試験(高卒者試験)」などを受けるには高卒資格が(明白に)必要です。一般企業でも、ときにはパートやアルバイトでも、「高卒以上」を条件にしている企業は想像以上にたくさんあります。自分が足りになりますがわたし自身飲食店のキッチンの皿洗いのバイトに高卒資格を持っていないせいで落ちたことがあります。
こういった状況にたいして、文部省や文部科学省は以前は「大学入学資格検定(大検)」という制度で対応していました。文字通り受けると「大学入学資格」が得られる検定です。ただしこれは大学進学をせず、高卒資格だけ取りたいというニーズにはこたえられていませんでした。そこで2005年、制度改革があり、大検は「高等学校卒業程度」を保証する資格となりました。これが高卒認定試験です。
 

わたしの経歴

学歴としては公立中学校卒業→私立高校1年次中退→ブランク7年→高卒認定試験合格→大卒です。ブランクの間は無職とフリーターをしていました。最後の1年で高卒認定試験と大学受験の両方に対応してくれる予備校に通い、8月に高卒認定試験に合格、2月に大学受験というわりとよくあるパターンで私大に進学、4年で卒業、新卒で就職して今にいたります。
 

そもそもなんでこの記事を書いているか

理由としては高卒認定試験の知名度とかがちょっとでも上がればいいなと思ったからです。欲をいうと人事部とかの人に見てもらいたい。時間の限られた面接で「高卒認定試験とは」を説明することで10分使う人が減ってほしい。あとなんかもしかしたらあなたの隣で学んだり働いたりしているかもしれない人がどういう経緯で今に至ったかを少し想像してほしい。そういう気持ちです。
 

高卒認定試験についてその2

話を高卒認定試験に戻します。
受験科目は5教科8科目、受けたことがある人はセンター試験の簡易版みたいなものをイメージしてください。昔の大検時代には家庭科とか体育もありましたが、今は国数英理社の筆記試験(マークシート式)のみになっています。試験は年に2回、8月と11月にあり、合格と同時に効力を発揮します。
大学受験資格は18歳になる年まで発生しませんが、高卒認定自体は16歳になる年から受けられます。また高校などに在学中に資格をとることも可能なため、16歳で高卒認定をとり、高校を中退してやりたいことをやり、18歳で大学受験をする、ということも可能です。
受験資格には年齢制限などはありません。 大学入学資格(リンク)を持っていない人間であれば、何歳でも、どの国籍でも、受験可能です(リンク)。
高校を中退した人でも、単位を取得して退学した場合は、科目免除が受けられます。たとえば1年次に「国語」「世界史A」「生物基礎」を取得していた人の場合、受ける科目は数学、英語、理科1科目、社会3科目の4教科6科目になります。ただし高校で必要単位をすべて取得していた場合でも、1科目は受ける必要があります。
科目はすべて一度に合格する必要はなく、合格科目は次の試験、あるいは翌年の試験に持ち越すことが可能です。
受験料は7科目以上を受ける場合8500円がかかります。同じようなセンター試験3科目以上が1万8000円、都立高校に3年間通うと学費だけでおおよそ35万円かかるので、まあ良心的といえる値段だとわたしは思っています。
試験のすべての科目に合格すると、晴れて高等学校卒業程度認定となり、進学、資格受験、就職、そういった段階に進みます。ただし高卒認定は「学歴」ではないため、最終学歴は中卒のままです。わたしは大卒見込みで就活をしましたが、履歴書には「中学校卒業」のあとすぐに「大学入学」を書き、資格欄に高卒認定を書きました(これは決まったことではなく、わかりやすさを優先して学歴欄に高卒認定合格、と書いてもいいと思います)。
 

高卒認定試験は受かりやすい?

これはよく言われます。文科省が過去問を公開しているのですが(めっちゃ更新が遅いので不満を持っています)、大卒の人に見せるとたいてい「えっ」と言われます。また、高卒認定試験は合格点が40点に設定されていることもあり、もう社会に出て10年くらい経ち勉強したことをほとんど忘れてる人でも合格点がとれてしまうことがあります。
なので3年間高校に通って定期試験とかちゃんと受けてやってきた人たちから見ると、それで高校卒業程度かよ、メチャメチャ簡単じゃん、ということになりがちです。
ですが、この試験は高卒認定を受ける人間にとっては、まったくもって簡単な試験ではありません。私は高校中退の身でしたが、試験の会場にはまったくもっていろいろな人たちがいます。小学校の早い時期から学校に通っていない人もいます。中卒でなにかのプロとしての道を選んだ人もいます。国民学校(!)卒の人もいます。その人たちがたとえばアルファベットの小文字のdとbの区別をつける、分数の構造を理解する、生まれて初めて古文に触れる、高卒認定試験とはそういう場所です。簡単だと思うのは簡単ですが、それは理解ではないと思います。
 

高卒認定資格に実効力はあるのか

「高等学校卒業程度」と国がお墨付きをくれたことになる高卒認定ですが、世間ではそこまで知名度もなく、ぶっちゃけ効力があるのか悩むひともいるかもしれません。
まず大学受験時には普通に有効です。わたしは私大・国立大ともごく通常通りの手続きを行い、受験して合格しました。医学部やAO入試などの面接がある試験では定かではありませんが、筆記試験ではとくにそれを理由に足切りされることはないとみていいと思います(2020年からの新制度ではどうなるかわかりませんが)。
次に就活ですが、これは大卒の新卒就活のときの経験ですが、「高卒認定≒高校中退だから」という理由でバッサリ切られたことは正直あります。面接官に説教をされたこともあります。身内の高卒認定合格者(大学進学せず)も、高校を出ていないのでという理由で何度か落ちました。それはもう企業の方針なので仕方ないです。ただし採用してくれる企業もあります。前述の身内もわたしもいちおう今は正規雇用で働いています。
 

高卒がありふれた今だから

先述の通り、いまや高校卒業率は90%を軽く超え、中退、中卒、小卒などはレアケースになりつつあります。ただ、いろいろあって(あるいはなにもなくても)、高卒にならなかった人たち、なれなかった人たちは確実に存在します。そういった人々がなにかを考えて受けた試験、資格を、どうか多少なりともポジティブに扱ってほしい。そういうお願いです。
 

おまけ:高卒認定試験を受験するか迷ってる人向けに

高卒認定試験受験にためらいがある

金銭の都合がよければですが、出願してしまうのをおすすめします。一度合格した科目は有効なため、思ったより労力をかけずに一部の科目に合格し、残りに注力すればいい状況になるかもしれません。
合格に不安がある場合、過去問と回答は文部科学省が公開しているため、まずはそれを解いてみることをおすすめします。また「高卒認定 解説」とかで検索すると無料で解説が手に入ることもあります。
気力があり経済的に不都合がなければ、アクションすることをおすすめします。めっちゃ気分が落ち込んでるとか希死念慮があるとか8500円払うとメシが食えなくなるとかそういう場合は、そちらの解決が先です。
 

高校を辞めようか迷っている

まず「高卒認定」は選択肢の一つです。いま全日制に通っている場合、同じ全日制、または通信制や単位制への転校、あるいは留年しての編入などが考えれます。ぶっちゃけ高卒認定試験合格は高卒以上のものにはなれないので、もし「高校というシステム自体が無理」とか「そもそも生活をやるのが無理」という状況でなければ、どうにかして高校を続けていくのが、「長い目で見れば」有利です。
でも正直そんな長い目でやってられないのが人生で、いまがしんどいつらいもうありえん、そういう状態の場合、そしてなんか親が学校行けとか言うとか、先生がうるさいとか、高校にはうんざりしたがどうしても大学には行きたいとか、いろいろある場合に「高卒認定という制度がある」ことを有効活用するのはアリです。それは戦略です。
 

予備校には行ったほうがいいの?

高卒認定試験に受かるのが第一目標の場合、かならずしも予備校に行く必要はないと思います。わたしが受験した10年前とは環境も大きく変わり、高卒認定学習支援サイトや、スタディサプリのような義務教育段階から学べるサービスもあります。いちど独学をしてみて、だめだったら予備校を考えるのもアリだと思います。
ただし年齢的な意味で時間がないとか、どうしても一度で受かりたいとか、試験のために会社を3ヶ月休めるとか、そういう人には予備校は効率はいいと思います。なんだかんだ向こうはプロであり、こちらは勉強の素人です。「合格最低点をとるための対策」とか「出願の手続きの補助」とか、そういうサービスは(お金はかかりますが)助かります。
わたしの場合の話をすると、大学受験まで面倒を見てくれる予備校に行きました。予備校に払ったお金だけで、15か月契約で120万円かかりました。それ以外に過去問や教材の費用、模擬試験代、肝心の大学受験費用などをふくめるとざっくり250万円ほど使いました。個人的にはその後ぶじ大学を卒業し就職できたため「高くはなかった」ですが、決して安くはないです。