【SCAM:SPAM】syrup16gのツアーに行ってきた
わたしがその前にsyrup16gのライブに行ったのは2014年9月の「再発」ツアー東京国際フォーラム公演だ。そのあとsyrup16gは何回かツアーやライブをしたけどわたしは行けなかった。申し込みすらできない時期もあったし、仕事が入って泣く泣く譲渡に出したこともあった。だからそこには5年のブランクがあり、わたしとsyrup16gは5年分歳をとり、そのあいだわたしにはいろいろあり、(まったく公開されないけれど)五十嵐隆にもいろいろあり(たぶん)、中畑さんとキタダさんにもいろいろあった(たぶん)。
今回のツアーは【SCAM】の日と【SPAM】の日に分かれていて、東京初日は【SCAM】=詐欺の日だった。会場は恵比寿ガーデンプレイスの中にあるこぎれいなホールだった。わたしはその日は有給をとって物販に並び、「詐欺」と「迷惑」のお習字TシャツとかロンTとかサコッシュとかを買って、ガーデンプレイスタワーのトイレで「詐欺」Tシャツに着替えて開場を待った。ホール入り口の近くには「再発」とか「患者」とかのお習字Tシャツや「COPY」のジャケTシャツを着た大量のsyrup16gのファンがいて、そういうsyrup16gを愛している人が東京なり関東近辺なり日本のどこかなりで毎日「生活」しているらしいことをわたしは感じとって変な気分になった。
セットリストはUK Projectのツイッターで公開されているので書いてしまう。
天才ソドシラソ神のカルマSonic DisorderHeavenHonolulu★Rock回送ex.人間イマジンテイレベルscene throughEn-1(I'm not)by you変態パープルムカデリアルEn-2根ぐされ
いわゆる「生還」前の、解散前のオンパレードだ。五十嵐のコンディションはとてもよかったと思う。わたしのテンションは最初から最後まで高かった、あのころせいぜい1GBしか入らないmp3プレイヤーに午後のこ~だでエンコードした曲を詰め込んで聴いていたファンたちはもういい歳だ、アラサー、アラフォーになった、そういう人たちがなんかとにかく生き延びた結果として恵比寿のホールで3人そろったsyrup16gの音楽を浴びられた。そういうのを幸福という。
syrup16gのライブにおいて五十嵐を視認することはわたしにとっては特に重要なことではない。音楽を聴きにいっているので五十嵐と中畑さんとキタダさんがステージに立っていればその時点でよく、ライブ中に五十嵐を拝もうという気持ちにはあまりならない。ただ今回の東京公演は整理番号がよくて、わたしの視界には(目を瞑らない限り)五十嵐がいた。46になったと言っていた。老けたなあと思った。五十嵐は別に精神と時の部屋とかで音楽に励んでいるわけでもないらしく、多分毎日歯を磨いたりシャワーを浴びたり週に2回燃えるゴミを出したりして46歳になった。これは完全に「reborn」で、「時間は流れて 僕らは歳をとり 汚れて傷ついて 生まれ変わっていくのさ」的状況で、たぶんrebornを書いたときに五十嵐が考えていた未来とか将来と今はおそらく一致してないだろうけれど、とにかく五十嵐が生きててギター持ってマイクの前に立っている、なんかそれだけで、いいや、と思えたのだった。
そして11/9、こんどは【SPAM】=迷惑のツアー最終日に行った。前日にツイッターで五十嵐が「一緒に歳をとりましょう」といった、というツイートが回ってきて、わたしはやっぱりrebornになってしまって、仙台駅の駅ビルのスタバで手帳のフリーページを開いて五十嵐隆、と書き、「=人間」と書き添えてそれ以上何も書けず、会場近くにとったホテルにすごすごと引き下がった。仙台会場のdarwinというのは恵比寿とは対照的な商店街のなかにあって地下3階まで降りるいかにもなライブハウスで、キャパは367人と明記されていた。ニコニコ生放送で中継があるにせよ、このライブに参加できるのが400人いないってどういうことだよと思いながらわたしは地下にもぐりワンドリンクの水を手に今回はキタダさん寄りで開演を待った。やっぱりセットリストは公開されているので明記しておく。
生きているよりマシさ赤いカラスゆびきりをしたのはStop brainFind the answerStar slaveI'll be thereShere the lightvampire's storeMurder you know宇宙遊泳En-1イエロウ生活落堕En-2翌日coup d'état空をなくす真空En-3きこえるかい
星の隙間で 踊っているだけ爪先に合う 三日月はなく行方知れずで 終わっていくだけどこにでもある 藻屑と消える違う絵本に 描かれている地続きじゃない 夢の行く先を手掛かりもなく 彷徨っている眩いものは 全てまやかし
これを生還後の五十嵐が書いて歌ってるというのがわたしはすごく好きだ。syrup16gというとやれ「君に存在価値はあるか」とか「生活はできそう? それはまだ」とかそういう歌詞が前に出がちだけれど「月になって」とか「水色の風」あたりから脈々と受け継がれているこの男の詩情みたいなもの、言葉からうまれるイメージへの信頼、それは「今度来るとき電話して 美味しいおそば屋さん見つけたから」に直結する人間への信頼だとわたしは思う。
あとメチャメチャかっこいいアレンジになってた「落堕」とか、「ゆびきり」とか、盛り上がるのはここだっていう「Shere the light」とか、ハイライトはいくつもあり、あるいはライブの間syrup16gはずっと輝いている。
最後に五十嵐は「よいお年を」と言ってアコギを抱えて「きこえるかい」を弾きだした。ワンコーラスを終えたあとにキタダさんのベースが入って中畑さんのドラムが入って曲は組みあがる。
歩道の上 うつぶせでも寝れるひんやりしてる渦の中 覗き込めば見える恥ずかしい気持ちが それとなくいいさ どんな言葉でも 受けるよいいさ どんな言葉でも 受けるよ知らせるさ 君には きこえるかい知らせるさ 君には きこえるかい
いうまでもなくわたしたちには新木場STUDIO COASTでの2月28日29日のライブ【SCUM】が待っている。「よいお年を」、それは五十嵐隆が来年も会いましょうと、仙台に集まった367人とニコニコ生放送で見ていたファンに贈った言葉で、わたしはそれを聞いていろいろある(とてもいろいろある、生きているといろいろからは逃げられない)けれど、2月末までは健康に気をつけて仕事をコントロールしてちゃんと衣替えとか大掃除とかおせち作りとかをして絶対に生き延びるぞと前向きに思った。おわり。